〝一滴一滴、丹精込めて 〟
はねぎ搾り復活のストーリー
「撥ね木」と呼ばれる巨木(約8m)を用い、てこの原理で圧搾する製法が”はねぎ搾り”です。吉田屋は大正6年に創業し、元来この”はねぎ搾り”でお酒を製造していました。しかしながら、並大抵ではない労力と低効率のため、製造方法はやがて機械化していきました。現蔵元の吉田嘉明が蔵へ戻った際には機械製造が主流になり、地元向けの普通酒のみ扱い、お酒をつくるたびに売れ残っている状態でした。
蔵元・吉田嘉明の思い
「独自性のある日本酒をつくって、地元だけでなく圏外の方に南島原ブランドのお酒を飲んで欲しい」という思いがあった蔵元は、吉田屋に残っていたはねぎの装置に着目しました。この製法を復刻するため、記録・記憶がわずかしかない状態から研さんを重ね、何度も試行錯誤を繰り返しました。そして長年の研究の末ようやく、日本国内でもわずかしかない”はねぎ搾り”製法を復活させました。
ひとつひとつが完全手作業
大きく深い槽(ふね)に酒袋を敷き詰めるのも、撥ね木を動かす阿弥陀車の操作も、1つ16kgの重石を最大60個吊るしていくのも、全てが手作業。酒袋は重さが軽すぎると搾れず、重すぎると破れるため、ひとつひとつの工程を慎重に、丁寧に行います。職人の経験と感覚のみが頼りです。こうして、じっくりと搾り出される原酒は独特なふくよかな味わいとなっていきます。
本物の味にこだわって
このはねぎ搾りという製法は、酒造り・酒蔵経営においては極めて効率の悪い方法です。機械のように完全に搾りきることが出来ませんし、手間と時間がかかってしまうため、現在の日本にはわずかしか残っていません。しかし、「搾りきらない」ことによって、最後に残る嫌な味を搾り出さず、「純」な味わいの酒が生まれます。また「手間」という目に見えない力と愛情が一杯の酒に注がれているからこその味わいも楽しんで頂ければ幸いです。
”はねぎ搾り”についてくわしく見る
はねぎ搾りについてご興味のある方は、こちらのページにて、さらに詳しく解説しています。また、動画でもご覧いただけますので、吉田屋の日本酒がどのようにして造られているかご確認いただけます。
5代目 吉田嘉一郎が案内する、日本酒造り見学
酒造りへの思い
和をもって良い酒を醸す
杜氏の間で古くから伝わる言葉に、「和醸良酒」という言葉があります。これは「和をもって良い酒を醸す」と読み、良いお酒を造るには「和」が大事という意味です。吉田屋が手間隙をかけてお酒を造るのは、何よりもお客様に笑顔になってもらいたいからです。伝統製法で造るお酒はどうしても製造量に限りがありますが、吉田屋の従業員一同、お客様の笑顔のために愛情を注いで一本一本お造りしています。
いのちが醸し出すリレーに感謝して
日本酒は、たくさんの生き物たちが活躍します。お米のデンプンを「麹菌」の糖化酵素により糖に変え、さらに糖を「酵母」という微生物がアルコールに発酵させます。こうした生き物(いのち)たちが醸し出すリレーにより、お酒が生まれます。もちろん生物なので、こちらが想定した通りになるとは限りません。彼らが働ける良い環境をお手伝いするのも私たちの大切な仕事です。
伝統を守るために、変わっていくこと
私たち吉田屋は、”はねぎ搾り”という伝統製法を守り続けています。しかしながら、良いお酒は造るだけではなく、伝えていくことも大事だと考えています。そのため、吉田屋では「花酵母」を用いた独自の日本酒の開発や、日本酒の製造工程から新たに生み出した「百年甘酒」、デザイナーやパティシエ、メロン農家といった異業種とのコラボ商品など多くの新しい取り組みを行っています。その目的は一重に”はねぎ搾り”の魅力を多くの方に知ってもらうためです。これからも吉田屋は伝統を守るために、変わり続けて参ります。